平成30年7月豪雨
去る7月6日週末の金曜日、昼過ぎには既に避難勧告が出されていましたが、その時間はまだほとんど雨も降っておらず呑気に構えておりました。
夕暮れ時の17時過ぎ、私は車に乗っていました。
にわかに暗くなった空からは大粒の雨が落ち始め、数分後には前が見えないほどの雨量となりました。
気象庁が記録的な豪雨になると注意喚起していましたので多少は気にしていたのですが、予想をはるかに上回る雨量でワイパーも意味をなさないほどの強烈な雨脚に恐怖すら覚えました。
通勤時間帯と重なったことと主要な公共交通機関が運転を停止したこともあり道路は大渋滞。
なんとか帰宅したものの、何やら外がざわついておりました。
窓から外の様子を覗き見ると、数軒隣の家屋下の法面が道路に向けて崩落しておりパトカーと消防車が数台停まって通行止めをしていました。
それから数分後、崩落した法面とは反対側からも道路に向け泥水が川のように流れ始めました。
このとき車両は通行止めとなっていたのですが、歩行者はちらほらと歩いている状況でした。
更に数分後、
バキバキバキッ
ゴゴゴゴゴ
という轟音が向かいの山から聞こえてきました。
それは半世紀近い人生において聞いたこともない音でした。
薄暗闇に目を凝らすと山が動いているように見えました。
これは本当にマズイ、土石流が起きる!
相変わらず歩行者が散見されていましたので大声で逃げるように叫んだのですが、雨音にかき消され声は届いていない様子。
後日わかったことなのですが、その方達もその時は「助けて!」と叫んでいたそうです。
私はすぐに消防に電話をし、消防車もパトカーも今の場所にいるのは危険なので完全に進入禁止にしたのちに退避させないと大変なことになると伝えました。
消防にはかなりの通報が入っていたようで電話越しでも背後がざわついている様子を伺い知ることが出来るほどでした。
電話に出た消防職員からは「あなたも安全な場所へ避難してください」と言われましたが、我が家は道路より高い位置にあり背後に山もありませんので危険は少なく屋内でおとなしくしているのがベストだと判断しました。
一夜が明け外の様子を確認してみたところ、幸いにも土石流というレベルのものは起きた様子は見られませんでしたが山肌は所々崩れており、道路には土砂が堆積していました。
テレビからは各地の被災状況が次々と流れ、その殆どがよく知っている場所で、友人・知人が住んでいる地区も多数ありました。
安否確認のため何人かに連絡したところ、人的被害はありませんでしたが、床上浸水や家屋半壊・車が浸水したといった方が多数おられました。
居ても立ってもおられず、外の様子を見ようと車に乗り込んだのですが、其処彼処が通行止めとなっており八方塞がりの状態でした。
日が経つに連れ、各地の詳細な被害状況が報道されるようになりました。
ボランティアといった立派なものではございませんが、微力ながら私もいろいろな場所にお手伝いに出向かせていただきました。
まず大変だったのが、どこに行くにせよ、其処彼処で道路の通行が制限されており、現場到着までに通常の5倍以上の時間が掛かりました。
被災地に着いて痛感したのが、実際に自分の目で見るのと報道で見るのとではまるで違うということ。
見知っていた地形は原形を留めておらず、川は土砂や岩石で埋まり、道は川となっていました。
そのような状態でしたので物流も滞っており、近隣の商店には生鮮食料品等は殆ど無く、其処彼処が陸の孤島状態となっておりました。
被災地に赴くにあたり、食料や飲料等は持参したのですが、今夏は異常な猛暑でしたので少しの作業で汗だくとなり、余裕を見込んで持参したつもりのスポーツ飲料も危うく無くなりそうになったことも多々ありました。
災害をもたらした大雨が上がってから当分の期間は恨めしいほどの晴天続きで、堆積した土砂が乾燥し粉塵が舞い異臭漂うなかでの作業となったのですが、これがかなり過酷なものでした。
なにもしていなくとも倒れてしまいそうな炎天下において、感染症を防ぐため、長靴・長袖・長ズボン・マスクを着用して作業にあたったのですが、まるでサウナの中で作業しているかのようでした。
とはいえ、ライフラインが寸断され、寝るところも不自由しておられる被災された方々のことを考えると、家に帰れば不自由なく水も使えて風呂にも入ることができる身としましては、一時の作業時の暑さなど些細なことだと考え、少々無理をして頑張ったのですが、今年の夏は尋常ではありませんでした。
うだるような暑さの中、熱中症で倒れる方が其処彼処にいらっしゃいましたが、道路事情が劣悪でしたので救急車を呼んでもいつ来るかはわからないような状況。
確か、作業参加5回目の日だったと記憶しているのですが、作業していると突然目がチカチカするなと思った数秒後、平衡感覚が麻痺し手足が痺れて力が入らなくなったときに気が付きました。
「あぁ、これが熱中症なのか、、」
と同時に立っていることが出来なくなり、その場に倒れこんでしまいました。
立っていられないだけで意識はありましたので「ここで救急車を呼んだらどこの病院に行くのだろう、このまま死んでしまうのだろうか、、」
などと考えていたところ、倒れたことに気付いた方が声をかけて下さり、頭から水もかけて下さいました。
更に、近所の被災された住宅の方が保冷剤を持ってきて下さり、脇や大腿部の付け根を冷やすことが出来たのが効いたのか、一時間ばかり休んでいたら普通に歩けるようになりました。
水分補給はこまめにしていたのですが、私が持参していたのはアイソトニックスポーツ飲料でした。
運動や作業での発汗による水分補給にはハイポトニック飲料の方が適しているということを知らず、スポーツドリンクならなんでも良いだろうと思っていたのです。
さすがにその日はそのまま帰宅しました。
その後も何度かお手伝いに出向きましたが、全国各地から大勢の方々がボランティアとして参加されておられました。
機械が入れず人力でしか作業出来ない場所も多数ありましたので、ボランティアの方が大勢いらっしゃるのはとても心強かったです。
日本人もまだまだ捨てたものじゃないと改めて感じました。
ただ、混乱を招くようなガセの情報を発信していた一部の愉快犯がいたことは残念でした。
インターネットやSNSは使用する方次第で便利で有益なツールにも有害なツールにも成り得ます。
今回の災害では其処彼処の道路が通行出来ない状況のなか、公的機関よりもかなり早い時期に通行可能な道路の情報をSNSから得ることが出来ましたし大変有益な使用方法だと思います。
一方、「〇〇方面からレスキュー服を着た窃盗団がやってきている」として車種やナンバーまで載せた偽の情報を撒き散らす輩もいました。
これは有害な情報だといえます。
実際、この情報を一部の自治体が鵜呑みにしてかどうかは不明ですが、町内放送でそのままの内容を放送しており、被災地に不穏な空気が流れた時期もありました。
200人以上の方の尊い命が亡くなり、未だに行方不明の方もおられます。
このような災害時において、被災地に混乱を招くような情報を故意に発信する方の精神構造を疑います。
火のないところに煙は立たないという考えの元に町内放送に至ったのかもしれませんが、公的情報の発信者側が情報の取捨選択を誤ったように感じました。
インターネットが存在するが故に生まれるビジネスにも有益なものと悪意のあるものが存在します。
現代社会において、災害時・通常時ともにネットで発信される情報は取捨選択が重要であり、誤った情報に惑わされない本質を見抜ける目を養うことが肝要であることを改めて感じました。
自然は人間の力で制御することは出来ません。
何百年経とうが、ドラえもんの道具のように自然を操ることなど出来ないのです。
様々な情報を取り入れ、最善と思える対処をしたつもりであっても、自然は我々の予想をいつも軽々と超えてしまいます。
詐欺商材同様、災害による被害を受ける方が少しでも減ることを心から祈るばかりです。
災害時には、ちょっとした判断の差で結果が変わることが多々有り得ますので、日々の生活のなかでも危機察知能力を磨いていくことを心がけることが大切です。
今回の災害から改めて考えたことは、災害等の命に関わる事象も含め、人生の経験者たるものは後進に様々な物事の危険性やリスクについて教え導いていくことが肝要であるということでした。
平成30年7月豪雨にて亡くなられた方々に哀悼の意を捧げます。
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